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逃げる太陽 ~俺は名無しの何でも屋!~

逃げる太陽 ~俺は名無しの何でも屋!~

一年で一番長い日 95、96

「他の<カクテルバー>・・・?」

まだあるんか、そういうべらぼうな超高級会員制クラブが。
不明ペット探し、一日三千円・・・人生の無常を感じる。俺はひっそりと溜息をつき、じっと手を見た。生命線が、やたらに長い。

「そちらの方はもっと手軽よ。会員制クラブの<カクテルバー>には及びもつかないわ。それでも、市販、というのはおかしいけれど、それに比べればかなり割高になるはず」

ぎざぎざしている感情線に、なぜだか二つに分かれている頭脳線。占い師じゃないから何を意味するのかわからない。俺なんか生活していくのにやっとなのに、しょーもない嗜好品に金出す余裕のある人間もいるんだなぁ。そういう奴の手相ってどんなんだろう。

そういえば、悪魔の子・ダミアンには手相が無かったんだっけか。

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ダミアンの髪の毛をかき分けたら666って痣があるんだよな。でも、なんで666なんだろう。黙示録?に『人の数字は獣の数字にして、その数は666なり』って書いてあったんだっけか。だからその666根拠はなんだよ?って突っ込みたくなったっけ。

「割高って言うけどさ」
俺はまた溜息をついた。

「いわゆる市販品でも結構するんだよね? ドラッグなんだから。それよりまだ高いのに需要があるのか・・・俺にはとうてい理解できないよ」

そう。なぜ666が邪悪な数字なのか、キリスト教徒でない俺には理解できないように。

「シャツやジーンズでも、イトーヨーカドーで買う人間がいればジーンズ専門店で買う人間もいるし、ブランド店でしか買わない人間もいる。それと同じことだと思うわよ」

いや、俺はユニクロだし。後は智晴とか友人からのももらい物だ。

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「本物のブランドに手が届かないから、手近の偽ブランドで満足するってやつか」
「そういうこと」

芙蓉は頷く。

「それに、お手ごろ価格の<カクテルバー>にも腕の良い<シェイカー>がいることがあるから、そういうところで買ったヘカテはそれなりの出来らしいわよ」

「・・・」

腕が良いってことは、化学知識が豊富で薬物にも詳しいってことだ。当然実験機器の扱いにも習熟してるんだろう。もっとマトモなところで使えないのかその知識と技術。なんてもったいない。

俺のそういう感想を聞いて、芙蓉は笑った。

「中にはドラッグに溺れるんじゃなくて、凝る人もいるらしいわ。ドラッグ・オタクっていうのかしら?」

そんな物騒なオタク、いらんわ!



*************************



「腕の良い<シェイカー>ほど、ドラッグはやらないものよ。一応味見くらいはするみたいだけど、溺れることはない。ソムリエみたいなものかしら」

芙蓉の説明に、俺はがっくりと肩を落とした。
ソムリエって・・・最近はワインだけじゃなく、日本酒のソムリエやら米のソムリエやら野菜のソムリエがいるらしいけれどもさ。

ドラッグのソムリエって何さ。

グレるぞ、おい。オジサンはグレちゃうぞ~、などと心の中でやさぐれてみる。
虚しい・・・

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弟は、もっと虚しかっただろうな。

「あなたの弟さんは廉価版のヘカテの流通を追ってたみたいなの。ヘカテ・オリジナルは会員制クラブからは外に出なかったから」

「そうなのか?」
門外不出、ってやつだろうか。

「ええ。そのクラブに同伴者として連れて行ってもらった人間の中にマナーの悪いのがいて、少量持ち出したことがあったみたいなんだけど、・・・末路は悲惨だったわよ」

「こ、殺されたのか? 俺の弟みたいに!」
俺は思わず大きな声を出してしまった。夏樹と、夏樹を遊ばせていた葵までがこちらを見たのに気づき、俺は焦った。

「い、いや、その。殺されそうになったクマさんを、お山に返してあげたっていう話だよ。な、芙蓉くん? 唐辛子スプレーはかわいそうだけど、殺されるよりいいよね!」

ベアアタック

必死に言い募るのに、芙蓉は微笑んで頷いてくれた。夏樹たちは再び積み木遊びに戻ったようで、俺はホッとした。

「はー・・・」
額に浮いてしまった汗を拭うのを、芙蓉が首を傾げて見ている。

「ん? あ!」
無言で俺の顔を眺め続ける芙蓉に、俺は謝った。

「ゴメン、子供がいるってこと忘れてたよ。世の中が殺伐としてるからって、子供のうちから聞かせていい話じゃない」

ドラッグうんぬんの話だって聞かせて良い話じゃないが、殺すの殺さないのの話は直接的な分、よけいにダメだと思う。子供の頃見たテレビドラマの殺人シーンなんて、その後しばらく夢で魘されるくらい怖かったし、とうに大人になったはずの今でも思い出すと厭な感じがするくらいだ。

芙蓉は首を振る。
「ありがとう、夏樹のことを考えてやってくれて。・・・うれしいわ」

あなたがあたしたち兄弟のお父さんだったら良かったのに、と芙蓉は寂しそうに言った。

いや、光栄だがしかし。今年二十一の双子の父親って、それだったら俺はいくつで父親になったことになるんだ。ちょっと複雑だ。

「ははは・・・」

乾いた笑いをもらしてしまった。いや、光栄なんだけどさ。





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